2010年読書録 ベストは『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ』
2010年の読書録をエントリーしようと、Amazonの注文履歴を見ると一年間に86冊買っています。
しかし、ブログに書評を書くために、表紙をスキャナーで撮った本はほとんどないですねぇ…
ハウツー本とまではいきませんが、SEOやWeb、セミナーの運営や講師のあり方などの、読んで終わりのものと、アプリケーションの解説書が多いです。
こんなことでは、目先の業務はより滑らかになったとしても、ビジネス的な飛躍はできないではありませんか!
孫子・戦略・クラウゼヴィッツ
2010年、今年のベスト1です。
経営者でも管理職でも、組織を左右する意志決定を行うような方に超おすすめです。
この本は、孫子や戦争論の解説をしながら、蘊蓄に終わらず、現代のビジネスに活かすことを、活かさなければならないことを、述べています。つまり優れたビジネス書ということですね。
戦略は、戦争の勝ち方、敵の滅ぼし方の方法論です。
孫子や、クラウゼヴィッツ・戦争論を知らないのは論外ですが、この両者は、時代も国も違っていたこともあって、決定的なところで真逆のことを言っているとのことです。これが驚きですよね。
敵は誰なのか、単独か複数なのかで、違っていると。
そのことから、負けは即、死か滅亡という状況と、小さく負けて大きく勝つやり直し可能な状況と、目の前にある戦争次第で、戦略が変わる、変えなければならないということです。
つまり、孫子は敵は多数で、そのひとつと戦ったとき敗北は許されない戦略、戦争論は目の前の単独の敵が相手で、負けても次に勝てばいい戦略、ということでしょうか。
天下統一の志向者が現れたら、孫子の戦略は無力になる、ということも衝撃です。
そして、こういった戦争やビジネスにおける戦略は高度に発達ながら伝播し、優秀なトップクラスの戦略自体が相似化してくるようになります。では、同じ戦略を選択したもの同士が戦ったらどうなるのか? という問いかけがあります。
勝利の決定要因は何でしょうか?
まずは天才。そして運やツキ。そういうものを持っている人に恵まれること。
次は訓練で、不即の事態に予想外のことがひらめくような、日ごろから畑違いの一流の知識や教養を深めておく。専門バカは戦略策定遂行の組織長には選ばないこと。
繰り返し、暗記するほど読み尽くしたい本ですね。
歴史は「べき乗則」で動く
歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学: マーク・ブキャナン, Mark Buchanan
とにかく、まずは 冪乗則 – Wikipedia の説明と、グラフをご覧ください。
個と個、2つ以上が結びつけばネットワーク、結びつく個が増えてネットワークが複雑化するとスケールフリー性があらわれることが多い。このスケールフリー性の統計データがべき乗則にしたがっているわけです。
物質の分子と分子、生物の細胞と細胞、生物の同一種の個体と個体、人間と人間など、この地球のすべての存在や、宇宙そのものがネットワークになっています。
ということは、ある程度の多集合で各要素につながりが見られるときは、ほとんどがスケールフリー・ネットワークとなり、べき乗則にしたがうと言い切ることもできるでしょう。
あれをしたら儲かるとか、これをしたら順位が上がるとか、本やセミナーで人生が変わるとか、そんな単発の付け焼き刃的なハウツー・チップスや自己啓発ごときで、世の中の仕組みに立ち向かうことはできないということですね。
ヒットするとか、爆発的に売れるとか、ビジネスのパンデミックは、複雑ネットワークのハブにあたるノードに当たれば拡販できるということです。下手な鉄砲は数打っても当たらないわけです。
何らかの方法論、成功の方程式は、べき乗則で描かなければ、科学ではない真実ではないということですよ。
もちろん、PageRankをはじめとしてGoogleのアルゴリズムは、べき乗則を示すものがたくさんあります。
さらに現代の知、科学の地平を示す必読の書もどうぞ。
岩崎弥太郎と三菱四代
龍馬伝では、まるで坂本龍馬の劣化コピーのようなあつかいでしたが、岩崎弥太郎は日本人が誇るべき偉大なベンチャー起業家です。
就活に苦しむ若い人の数人でも、三菱グループに就職することをこいねがうのではなく、三菱のような会社を興して欲しいものです。
三菱創業者の岩崎弥太郎は、幕末から明治の大混乱期に、志を遂げた大経営者です。
その弟の弥之助が、三菱東京UFJ銀行、三菱商事、三菱重工業などの今日の三菱グループの原型をつくっています。
政争がらみで政府との確執の中、ガンで亡くなった兄弥太郎のあとを次いで、みごとに三菱財閥の基礎をつくりあげます。後藤象二郎の娘と結婚しています。
弥太郎の息子久弥、弥之助の息子小弥太と、戦後の財閥解体までの四代の話です。
非常に意外なのは、初代の弥太郎から一貫して、政権と対決したり密接につながったり政商といったおもむきなのですが、会社として株主や従業員のことを、歴代の経営者が深く考えていたことです。
つまり岩崎家の私物、家業とはしなかったということですね。
創業家の姓を社名にしていないことにもうかがえます。
その他のおすすめ本
上記がベスト3です。
ネット不動産進化論
SEOによる集客、コンバージョンや直帰率などなどの、アクセス解析用語がまるで役に立たない、本物のインターネットビジネスを解説しています。
また、20世紀型のアナログビジネス、特に地域型のスモールビジネスに対して、21世紀の正解のひとつを示しています。
現場を知らずに、理論から入る頭でっかちのIT屋が、いかにダメかを思い知ることになるでしょう。
そして不動産に限らず、似かよった業種業態が、学ばなければならないことが、この本には書いてあります。
究極のネット集客術
日本一のホームページ成功請負人が教える究極のネット集客術: 湯浅 淳
この本には、検索経由の集客はまったく出てきません。
やはり、自ら発見し、工夫を積み重ねたビジネス方法論は、本物の凄さがあります。
自分の目で見て、自分の手を動かし、母親が唐突にはじめた旅館業を成功させるわけですが、口だけ動かす評論家とは違った話になることは、分かりますよね?
SEOというか検索経由の集客は、数ある集客のひとつに過ぎませんし、集客は売上の手段でしかありません。
そいうった、集客と売上のできるホームページをつくる、参考にするべき必読書でしょう。
ピクト図解
これは、自分がビジネスモデルをつくるとき、成功している事業を分析するとき、とても役に立つ方法を教えてくれます。
本の中の、ビジネスモデルの図を、スキャナーで取り込んでコピーして持ち歩いています。
ただ最近は、セミナーを開いたり、iPad・iPhone用のアプリを配布したり、著者の方がカツマ化しつつあるのではと少し心配しています。
私はこの本、ピクト図解を土台にして、自社のビジネスモデルを精査し、マーケティングや商材開発に、大いに役立てさせていただいております。
会社のつくり方
やはり、成毛眞氏は凄い。
同時代人で、ただひとり尊敬する日本人です。
マイクロソフトの社長として、Windows 95やOffice 95を大拡販した功績だけでも、常人のおよばない領域にあるのですが、
成毛氏は、成長力の限界を見切って、マイクロソフトを退社し、投資顧問会社をつくっています。
お金を出して、口も手も出す、というビジネスです。
非常にリスクが高く、かつ事業の目利きとならなければなりません。あるいは、マーケティングから商材開発までやるということです。
そのような人の語る、会社のつくり方ですから、参考にならないはずはありません。
成毛氏は、軍事オタクの面があり、戦略も常人以上に重視していると思われますが、別の著作やブログを読むと、趣味道楽の範囲の広さに驚かされます。また、図書館ができるほどの自宅の蔵書棚に圧倒されます。
やはり、戦略家は物知りで多趣味が当たり前、文学や芸術に造詣が深くない人物は人の上に立ってはならないということでしょう。
日本軍のインテリジェンス
日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか: 小谷 賢
幕末・明治維新で欧米列強による植民地化を防ぎ、敗戦・戦後焼け跡から奇跡の復興を成し遂げた日本人のDNAは優れていると思うのですが、
どうも、日本人の組織はいつも官僚化され、特にインフォメーションとしてのデータ的情報の収集はこなすものの、意志決定に役立てるべきインテリジェンスとしての戦略的情報の消化は決定的に苦手なようですね。
第二次世界大戦で敗北したこと、そもそも戦争に突入したことから、日本は道を踏み外したのではないかと思われます。天下国家の政治に戦略が見当たらないわけです。未だに…
そして、日本軍だけの問題ではなく、あらゆる組織でインテリジェンス不足ですから、政府や大企業、中小企業から個人事業主まで、成功確率が低くなっています。
イギリスやアメリカが、あいかわらず強い理由も分かります。
その時歴史は動かなかった!?
この本の内容そのものよりも、通説や常識を疑う練習をする、歴史好きにとっては格好の書ということになります。
今までの、大勢の人に共有された知識を鵜呑みにすることは、自分がこれからも大勢の人とは違わない考え方や行動をするということになるでしょう。
それで、会社を発展させるとか、新しい事業を成功させるとか、できるのかな? と自分を振り返るきっかけとなります。
書評に戻れば、日本人は太古から、戦争の決定要因は飛び道具と知っていた、ということですね。
ですから、通説的な歴史書で、突如として弓矢や鉄砲、あるいは大砲などが勝因となったというのは、まったくのでたらめだということです。
白兵戦を美化するのは、二百三高地が日本ではじめて! という感じです。
江戸300藩の意外な「その後」
この本は、それこそ通俗的な読み物のたぐいになります。
龍馬伝を見てきて、非常に気になったのが、薩長土肥以外の藩の運命です。
日本人が好きな、信長・秀吉・家康の三大天下人と、それにまつろう戦国時代の人物譚ばかりに漬かっていると、
伊達政宗の仙台藩、前田利家の金沢藩などは、維新ではお呼びでなかったという、開祖の偉業を裏切る末代のていたらくを知ることができます。
組織を作ること、その組織が何百年も残ること、イノベーションによって活躍し続けること、これが重要なのです。
そして、事勿れや日和見は、いつかかならず滅亡を呼び込むということを思い知らなければなりません。
書評は書かなかったおすすめ本
もう少し、2010年に買って読んだおすすめの本をリストアップしておきます。
もちろん、読んでも読まなくも態勢に影響のないような、SEOやWebやセミナー関連、ソフトの解説書以外です。
ビジネス
- はとバスをV字回復させた社長の習慣: 宮端 清次
- 従業員7人の「つばめや」が成功した たった1年で5000万円売上げを伸ばす仕組み: 高木 芳紀
- フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略: クリス・アンダーソン, 小林弘人, 高橋則明
社会経済
- FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書): ジャニーン・ドライヴァー
- 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義: ティナ・シーリグ, Tina Seelig
- 使える経済書100冊 (『資本論』から『ブラック・スワン』まで) (生活人新書): 池田 信夫
- 絵でみる 失敗のしくみ (絵でみるシリーズ): 芳賀 繁
科学
- Google PageRankの数理 ―最強検索エンジンのランキング手法を求めて―: Amy N.Langville, Carl D.Meyer
- 情報検索アルゴリズム: 北 研二, 津田 和彦, 獅々堀 正幹
- ベイズな予測―ヒット率高める主観的確率論の話: 宮谷 隆, 岡嶋 裕史